半導体製造工程で学ぶメイクの基本
※「あなたはなぜサークルクラッシュ同好会に入ったのか」6日目の記事です※
5日目の記事は永井冬星(id:tosei0128)くんの「摂食障害はつらいよ 社会不適合者はたまにはサークラ同好会に帰りたい」でした。ほっかいどう~
新年度です。
入学や入社で環境が変わった方も多いと思います。
大学生になる方、社会人を始める方、おそらくメイクを始める方も多いのではないでしょうか。
なにを隠そう、私自身が大学を脱出して会社人間になってからメイクを始めました。週末女装して過ごすことが多くなったからです。同じように、この春から週末女子を始めてみようと思っている方も多いと思います。
私はメイクを教えてもらうにあたって、サークルクラッシュ同好会のたくさんの方に教示をいただきました。興味深いことに、メイクのやり方や方法論は各人少しずつ違いがあり、メイクについて一人一人インタビューしてみるなんて企画を私は胸の内に温めていたりします。
この春は、私がメイクを習い始めて4年目に入らんとする春です。まったくメイクを知らないけど興味はあるという方に、今度は私が教える番なのではないでしょうか。もちろんメイクのやり方を教えてくれるサイトはたくさんあります。しかし、先ほども書いたようにメイクとの付き合い方は十人十色。メイクは学校の「教科」として編成されていない(けどみんなやっている)のでそれも当然です。だから、周知のテクニックでも私なりに「メイクとはこういうもの」という考え方とセットで提示するのには意味があるでしょう。この記事がthe happy fewに届くことを願っています。
そして女装男子を目指す皆さん、ぜひ先輩の後に続いてください。
- メイクの目的
- メイクの方法
- メイクの道具
- メイクをばなににたとへん
- ウエハーとはなにか
- 化学的・物理的研磨(洗顔とムダ毛処理)
- 表面改質(化粧下地)
- スピンコート(ベースメイク)
- OPCをかけよう!(アイメイク)
- リップメイク
- こまめな洗浄(化粧落とし)
- シミュレーション(アプリ加工)
メイクの目的
どんな技術にも目的があります。
生物のような行き当りばったりの「盲目の時計職人」とは違って、技術は人間の人間的な目的のために精緻に編成されています。メイクの技術。その目的は顔の印象を変えることです。もちろん若々しく、整った、魅力的で美しい顔面は相手の好印象を引きだすだけでなく、自分が相手に対して堂々とアピールする自信につながるでしょう。メイクが「武装」に比喩されるゆえんです。しかし、私はこれはメイクの目的をあまりに短絡していると考えます。老けメイクがあるように、メイクは当たり前からの逆行や逸脱を成し遂げる技術でもあるのです。
変化。変化です。
メイクは相手の印象を変え、自分の中の自分を変える技術です。
メイクの方法
では、以上の目的はどのような方法を通して達成されるでしょうか。それは、顔面の皮膚に様々な物質を塗ることによってです。塗られる物質が塗料(特に水に不溶な染色塗料を顔料といいます)、塗料が形成する膜が塗膜です。車の外装は塗膜に覆われてあのなめらかなフォルムを際立たせています。
メイクとは塗る技術です。
もちろん、メイクとは描く技術でもあります。多くのメイクの本はこの描き方に焦点を当てています。しかし私は工学的視点から、「いかに塗るか」に焦点を当ててメイクの技術を体系づけてみたいのです。これはすなわち、自分の顔の表面で膜がどのように形成されるかをイメージするということです。
メイクの道具
方法は明確になりました。次は、用いる道具について考えていきます。
道具は大きく分けて二種類あります。塗られる塗料と、塗るための工具です。顔には様々な部位があります。最も重要な部位は目、そして眉とまつ毛。それから口、鼻という開口部、額や頬や顎といった平坦部があります。それぞれに適した塗料があり、その塗料を塗る工具があります。しかし最も重要な工具は自分の指です。様々な工具はこの指の働きを補助するものです。そして、指の操作は目を通して入力される光信号を処理してフィードバックをかけながら行われますから、そのための光学機器(鏡)が必要です。あと、工具箱としてポーチがいりますね。
しかし、しかしです。これはメイクの半分しか見えていない!
人間の顔面はもともと塗料を塗られるようにできているわけではありません。ですから、塗料が顔面にうまくのるような下処理が必要です。私が言いたいのは、洗浄(クレンジングオイル)、研磨(髭剃り、毛抜き)、改質(化粧液、乳液)のことです。そうしてはじめて塗料がうまいこと皮膚になじみ、意図したメイクアップがもたらされるのです。
メイクをばなににたとへん
こうしたことは、もちろん日頃メイクをされている方は当たり前に、ほとんど無意識のうちに理解していることです。しかし、まったくメイクの習慣がなく、ゼロからメイクを始めようとするとき、この「コーティング」がうまくイメージできず、どういう道具をそろえて何を始めればいいのか途方に暮れてしまうのではないでしょうか。
いったいどういう技術と比較すればメイクをうまく説明できるだろうか。それはメイクをしない人にとっても身近でありふれた題材でなければなりません。そのとき私はひらめいたのです。この記事を読んでいるあなたが覗いているスマホ。その画面の裏で微熱を発しながら働いている半導体。
これ以上に身近な題材があるでしょうか?
なんとなれば、その半導体はシリコン結晶を薄く切り出したウエハーという「顔面」に様々な塗料を塗りつけ微細な構造を形成することで作成されています。半導体製造工程は複雑多岐にわたり、全ての見通しをつけることはとても大変です。私が着目したのは、フォトリソグラフィという工程のコーティングです。ウエハーの顔面に意図した配線を描き出すのをイメージしながら、メイクの基本を納得していただければ幸いです。
ウエハーとはなにか
ウエハーは古風な喫茶店のアイスクリームについてくるお菓子のウエハーと同じ言葉で、薄い板を意味します。半導体は導体(金属、周期表の左側)と絶縁体(有機物など、周期表の右側)の中間に位置し、電気を一方向に通したり増幅したりします。そのために、周期表の真ん中にあるシリコン(ケイ素Siの純粋な結晶)にプラスやマイナスの電荷を持たせます。ケイ素は地球上に最も大量にある元素。安価で工業価値が高いです。半導体で言うウエハーは、シリコンの薄い板のこと*1です。
化学的・物理的研磨(洗顔とムダ毛処理)
切り出したウエハーの表面はラフで、そのままでは細かい配線を描き出すことはできません。それをできるだけぴかぴかに、真っ平らに磨き上げること。これをCMP(Chemical Mechanical Polishing/Platening)といいます。
CMPではスラリーと呼ばれる研磨剤を使用し、ブラシを回転させてウエハー表面の凹凸を削り落とします。どのように凹凸をなくしているのかのメカニズムは、物理的に研磨剤がぶつかるのと、シリコン表面への化学反応によるのとの二説があり完全に明らかにはなっていません。
人間の顔面もウエハーの表面と同じようにラフで、放っておくと垢がこぼれ皮脂が滲み毛が生えてきます。垢や油脂は普段使っている洗顔料で落とせばいいですが、問題は毛、特に髭、もみあげ、眉毛の処理です。
メイク前には(覚悟の問題ですが)顔面全体に髭剃りを当てるくらいのつもりで、ムダ毛を落とすことが工学的理想です。
もみあげや目元の毛は髭剃りで剃ればいいでしょう。眉毛の形は眉毛用の剃刀で整えるか、あるいはすべて剃り落すかです。形を整えるだけなら毛抜きで抜いてもいいと思います(私は抜いています)。眉尻の広がりと眉と眉の間の毛は必ず処理が必要です。口もとの髭はできるだけ深剃りする必要があり、青髭を避けるために抜ける範囲で抜いたほうがいいです(私は抜いています)。青髭は、コンシーラーやチークで補正できますが、女装の敵です。でも私はまだ脱毛には手を出してないです。
CMPはリソグラフィの準備として非常に重要です。ウエハー表面の平坦化技術によって数十ナノメートルレベルの正確な配線の転写が可能になりました。髭の処理は特に面倒ですが、CMPの重要性に思いを馳せながら鏡に向かってください。
ジレット カスタムプラス3 髭剃り スムース CP3-S12 12本入
表面改質(化粧下地)
顔面の皮脂や垢は顔の保湿や撥水、菌叢(バイオーム)のコントロールといった物理的・化学的免疫効果を持っています。これを洗顔料で除去し、髭剃りで傷つけてしまったわけですから、むき出しの皮膚をカバーする必要があります。さらに、これからメイクで塗布するファンデーションののりを良くする必要もあります。
CMPをした後のウエハー表面も、シリコン結晶がむき出しになっています。これに空気中の水分が反応して、シラール基(Si-OH基)が形成されます。ところがこれからウエハーの上に塗布するのはレジストという感光性プラスチックを有機溶媒(シンナー)で溶かし込んだものです。これは水と相性が悪く、この後の現像工程で、ウエハーとレジスト膜の間に水が入り込んで剥がれる原因になります。レジストがウエハー表面としっくりなじむように、表面の化学的性質を親水性から疎水性に変化させなくてはいけません。つまり、水っぽい表面を油っぽくする必要があります。
これを実現するのがHMDS(hexamethyldisilazane)です。シラザン(Si-N結合)を2つ持ち、ケイ素の先に6つのメチル基(Si-CH3)がついた、アンモニアのお化けのような分子です。これがシラール基をメチル基に置換し、自身はアンモニアに分解されます。
HMDSはどこが優れているのでしょうか?
ウエハー表面につくる配線にとって金属イオンは大敵。さらに、メンテナーやオペレーターが行き来するクリーンルームで人体に有害な物質はできるだけ出したくありません。そして大量生産の効く安価でシンプルな材料が求められます。これは化粧品にもある程度当てはまることです。古来、鉛や水銀、ヒ素を用いた顔料で多くの中毒者が出ていました。現在は(動物実験などで)安全性を保障された顔料が使用されています。
閑話休題。化粧水は水にアルコールやグリセリンといった、ヒドロキシ基のついた保湿成分を配合したものです。HMDS処理とは逆のことをしているわけですね。この後乳液を塗りますが、そこには界面活性剤が含まれていて、油との相性を良くします。つまり、皮脂の代わりをしているわけです。そして、その後に塗るのが化粧下地です。HMDS処理がプラスチックのレジスト膜をウエハー表面になじませるように、化粧下地は皮膚とファンデーションをなじませ、汗でファンデーションが浮き上がらないようにする働きがあります!
まとめると、
化学的・物理的研磨を行ったお肌は化粧水や乳液でケアし、化粧下地で表面改質をする
ということです☆
納得できましたでしょうか。ちなみに、HMDS処理ではオーブンで200℃以上に加熱してHMDSを完全に分解し排気・乾燥させますが、私は時短のためにスキンケアの後にドライヤーを使うことがあります。いいのか悪いのかはよくわかりません。
ビオレ UV さらさらパーフェクトミルク SPF50+/PA++++ 40ml
スピンコート(ベースメイク)
半導体のコーティングには大きく分けてCVD(Chemical Vaper Deposition)とスピンコートがありますが、前者はガス状の気体原料を熱や光で励起して表面に積もらせていく方法でメイクには全く参考になりません。ここではレジスト塗布の一般的な方法、スピンコートを説明します。
レジストとは文字通り抵抗resistする物という意味です。フォトリソグラフィは、レントゲン写真の要領で、紫外線をマスク(体)に通してレジスト(フィルム)に露光することでマスクの配線(骨格)をウエハー表面に写し取る技術です。レジストは光の当たった部分だけ溶け、そこがウエハーが削られて配線されます。ウエハーを削ることをエッチング、削るプラズマをエッチャントといいます。
かわいいですね♪
このエッチャントに抵抗するからレジストなのです。
露光するとき、紫外線がウエハー表面で反射することでレジストに干渉縞の段ができてしまいます。これを防ぐために紫外線を吸収する反射防止剤ARC(Anti Reflection Coating)を塗ることがあります。レジストの前(bottom)に塗るのをBARC、レジストの後(top)に塗るのをTARCといい、BARCは現像中に水が入ってこないように疎水性、TARCは現像中に中和して水に溶けるように酸性となっています。
レジストやARCをウエハー表面に少量(1ccほど)たらし、ものすごい高速で回転させて1μmほどの膜をつくるのがスピンコートです(回転数はレジストの粘度で決まりますが、およそ4000~6000rpm)。レジストは結構値段が張るのですが、表面に残るのはたらしたうちの1%程度、のこりは振り切れて廃液されてしまうというたいへん贅沢な方法です。無駄をなくすために、インクジェットの要領でウエハー表面をスキャンするケチくさい方法も開発されています。
スピンコートは配線の間を絶縁する絶縁膜を塗布するときも使われています。これには大きく分けてポリシロキサン(polisiloxane)とポリイミドがあり、それぞれSOG(Spin on Glass)とSOD(Spin on Dielectric)と呼びます。シロキサンはシラン(ケイ素)オキシゲン(酸素)アルカン(有機物)が結びついた構造で、これを加熱するとガラスglassのようにゲル化します。ポリイミドには感光特性を持たせることもできますが、SOGはもっぱら配線ででこぼこした表面の平坦化に用いられます。
……さて、これはメイクの話でした。
もちろん顔をぐるんぐるん!と振り回してメイクするわけではありません。
しかし、すでに重要なキーワードがたくさん出てきています。紫外線の吸収はメイクにとっても重要なので、乳液や化粧下地には日焼け止めの成分が含まれていることが多いです(BARCの要領です)。そしてその上に塗るのがファンデーションです。ファンデーションfoundationとは文字通りメイクの「基礎」となるもので、顔面全体に一番大量に塗る化粧品であり、顔のトーンを決めます。
トーンにはイエローベースとブルーベースがあると言われています。人間の色覚は三つの錐体細胞の組み合わせで構成され、それぞれ波長の長い方から順に赤(Long)、緑(Middle)、青(Short)の光を吸収します。ということは、Lを吸収する物は目がMSを受け取ってシアンに、Mを吸収する物は目がLSを受け取ってマゼンタに、Sを吸収する物はLMを受け取ってイエローに見えるということで、この関係を補色と言います。*2
イエローベースということはどちらかというとSを、ブルーベースということはどちらかというとLを吸収する肌で、
イエローベースの人はLMを吸収するベージュ系のファンデーションを、
ブルーベースの人はMSを吸収するオークル系のファンデーションを
使う方がいいということになります。理屈では。ちなみに、この3色色覚を獲得したのは樹上生活をしていた私たちが熟した果物を見つけるためと言われています。
青髭を隠すのも同じ原理で、肌の下の髭が比較的Lを吸収して青く見えるので、Sを吸収するピンクオークルのコンシーラー(スティック状のファンデーションで油分が多く、クマやシミを隠すのに使います)やオレンジのチークを使って目立たなくします。
ファンデーションにはもう一つ重要な働きがあります。それは毛穴の凸凹(でこぼこ)を埋め、凹凸(おうとつ)のないなめらかな肌にすることです。まさにSOGの働きですね。
最後に、こうやって何度も重ね塗りをするのはたいへん面倒ですね? 時短メイクのために乳液とファンデーションが一体化したBBクリームやオールインワンファンデーションがおすすめです。*3
どうでもいい付け足しをすると、スピンコートではウエハーの縁にレジストが回り込んで残ってしまうエッジビードができます。これを放っておくとウエハー搬送の際に乾いたレジストが飛び散ってパーティクルの原因になるので、シンナーで洗い流し、さらに縁だけしっかり露光して現像時にもう一度洗い流すという手間をかけます。メイクでは反対に、エッジビード(生え際)の塗り残しに気を付けて、顔周りはウィッグで隠して小顔効果を狙うなどしてください。
ちふれ化粧品 BB クリーム 1 自然な普通肌色 BBクリーム 1
ミシャ M クッション ファンデーション(マット)No.23(自然な肌色) 15g
KOSE コーセー ノア スティックコンシーラー 02 (2.6g)
OPCをかけよう!(アイメイク)
ついに製造工程の本番、フォトマスクによる露光がやってきました。
ここで問題になるのは、マスクに描かれた配線をどこまで正確にウエハーに写し取れるかということです。
正確さを期すためにはマスクをウエハー表面にくっつけるコンタクト露光が理想ですが、そうするとレジスト剥がれが起こるので、一定の距離をおく縮小投影露光が行われています。しかしプロジェクターを思い浮かべると分かりますが、投影する画面にきちんと焦点を合わせなければ映像はぼやけてしまいます。レジストの厚み分の焦点深度を確保するために、露光の波長を短くし、屈折率を減らすためにレンズとウエハーの間を水で充たす液浸露光が主流です。しかし、たとえ焦点を合わせたとしてもマスクを通した光は干渉しあい、意図した像を結びません。そこで、干渉を見越してその分マスクをゆがめておくOPC(Optic Proximity Correction)で補正をかけます。
メイクの考え方も、このOPCと同じだと思います。人間の視覚効果に働きかけて、目を大きくくっきり見せる補正を行うのです。最先端の製造工程ではマスクを見ても投影する配線が分からないくらいOPCをかけまくるらしいですが、
同じくらいの意気込みで目の周りにOPC(Optic Proportion Correction)をかけまくる
これがアイメイクです。
まずはアイブロウ。
眉頭をぼかし、眉尻をかきたして柔らかな雰囲気をかもし出します。女装にはブラウンがよいです。逆に、眉頭が内側で目に近いと目鼻立ちがくっきりした印象になるので、男前に見せるには眉頭近めに、色はグレーでかくのがいいでしょう。ペンシルタイプが書きやすいです。
続いてアイライン。
上まぶたから目じりにかけて黒く線を引き、目を大きくくっきり見せます。これもペンシルタイプがいいと思います。さらにアイシャドーをまぶたにかけて影をつくり、立体感をつけます。あと、邪道かもしれませんが私はブラウンのアイブロウで涙袋もかいたりします。
そしてつけまつげ。
目が大きくかわいく見えるようになるので絶対やったほうがいいです。が、うまくつけるのが結構大変です。のりが剥がれて取れることもあるので、加減をつかむまで試行錯誤しましたがいまだに苦手です。つけまつげを毛抜きにはさんでつけようとして、危うく目に突き刺しそうになったことがあります。もしくは、アイビューラーでまつ毛を上げて、マスカラでまつ毛を伸ばす方法もあります。しかしビューラーもこれまた使うのが難しく、私はつけまつげ派です。
なお、カラーコンタクトレンズ
でひとみを大きく見せることでもかわいさが増します。ドンキホーテなどで売っていますが、購入には原則眼科医の処方箋が必要です。カラコンはメイクの前につけておきます。これもうまくつけるには練習が必要で、最初は両目に30分くらいかかると思います(かかりました)。
露光は半導体製造工程の要であり、露光機は半導体製造工場の数ある装置の中で最も精密で最も高価で、出荷台数に比べて非常に大きな市場規模をもっています。アイメイクも同じくらい、
手間と試行錯誤と課金を惜しまない姿勢
が求められていると言えます。
ニューボーン ダブルブロウEX N B2 グレイッシュブラウン
リップメイク
リップに対応する半導体製造工程は思いつきませんでした。
こじつける要素がないわけではありません。スピンにかけるウエハーはチャックというパーツで固定するのが一般的です。チャックは、掃除機の吸い込み口の要領で負圧をかけて固定するのですが、ウエハーとの間に隙間があると空気が漏れ入って負圧が下がってしまいます。
しかも、ウエハーに薄膜が塗られていると、ウエハーとプラスチックの膨張係数が違うために温度変化によってウエハーに反りが出ることがあります。するとますますチャックとの密着が難しくなります。そこでチャックにリップという、ウエハーに柔軟にタッチする構造をつけます。負圧がかかればかかるほどリップはウエハーに押し付けられ漏れをなくす(シールする)ことができます。
この原理はベアリングの軸受けオイルが漏れないようシールするときに効果的に利用されていますが、このとき軸とリップが潤滑に接するようリップにあらかじめオイルを塗っておく必要があります。おっ、まさにリップクリームではありませんか? ただ、ウエハーを固定するチャックのリップにオイルを塗ることはありません。
巧い説明が思いつかなかった言い訳というわけではありませんが、リップメイクはけっこう難しく、しかも女装ではちょっとけばくなってしまうのでそこまで力を入れなくてもいいかなと思います。色つきリップクリームが圧倒的におすすめで、女装にかんけいなく普段使いしています。冬は唇が荒れることも多いですし。リップグロスをつけると発色が良くなり、リップが映えます。まあ、メイクと言うほどではありません。
口紅は、ルージュを一つ買っておくとチークに使えて便利です。
メンターム 口紅がいらない薬用リップうすづきUV 3.5g SPF12
KOSE コーセー ノア リップグロス 03 ピンク系 (8g)
こまめな洗浄(化粧落とし)
半導体製造工程における最大の課題、それは歩止まり(一つのウエハーから製品として切り出せるチップの数)の向上です。この歩止まりを下げるのが、パーティクルとよばれる様々なゴミによって配線が乱れ、チップが正しく動かないという問題です。そこで、最先端の緻密な製造工程になればなるほどウエハーの洗浄技術の向上が求められます。マクベス夫人よろしく、パーティクルを洗って洗って洗い落とさなければなりません。
先に書いたように、工場では人間に有害で環境への負担が大きい物質の使用を避けるのが原則ですが、洗浄工程ではそんなことを言っていられません。きわめて有毒で危険な物質、フッ酸が大量に使用されます。高校化学で、ガラスを溶かすのでプラスチック容器に保存すると習う、あのフッ酸です。ウエハーは放っておくと表面が酸化されてガラスと同じSiO2の酸化被膜を形成します。この膜をパーティクルもろとも溶かして洗い流すのがフッ酸に期待される役割です。
他にも、ウエハー表面に残留する有機物を分解除去するために硫酸やオゾンが使用されますが、これも危険性の高い物質です。また、水が乾燥したときにできる斑紋(ウォーターマーク)を残さないように洗った後はIPA(イソプロピルアルコール)で水を置換しますが、これも吸入すると神経や腎臓が冒されてしまいます。それでも私たちは澄み渡った清浄なウエハー表面を希求しているのです。
洗浄の大切さがお分かりいただけたでしょうか。
ところでメイクでも、肌に過度な負担をかけないためにこまめな洗浄が大切です。クレンジングオイルを使ってメイクを落とすまでがお化粧です。個人的に、メイクをしない日でもクレンジングオイルを使って洗顔したら肌がきれいになる気がするんですが、どうなんやろ。半導体製造工程のように、フェイスパックをしたり蒸しタオルを使ったり、お肌のケアに気合を入れるのが理想なのかもしれませんがそこまでしたことは私はありません。
それから、旅行先でもすぐにメイクが落とせるよう、ポーチには携帯用のメイク落としを入れておくのが便利です。
KOSE コーセー ソフティモ ディープ クレンジングオイル 230ml
シミュレーション(アプリ加工)
SNOWやSODAを使えば、今まで書いたようなメイクがスマホの画面をいじくるだけでできてしまいます。ええっ、それじゃあリアルでメイクなんかしなくてもいいんじゃない!? と思われるかもしれません。しかし、話は逆で
これはけっこうためになる
と思っています。今まで説明してきたベースメイク、アイメイク、リップ、チーク、カラコンまですべて画面上で思いのままに操作でき、どういうメイクをすると自分の顔がどんな印象に変わるのかがシミュレーションできるのです。メイクの練習にこれを活用しない手はありません。
半導体メーカーも、CMP、スピンコート、ベーク(シンナーを蒸発させたり露光後に反応を促進させたりするための加熱)、露光、現像、洗浄などの物理的・化学的な振る舞いが様々な数理モデルによりシュミレーションされ、それをもとに製造プロセスを改善しています。レジストや絶縁膜材料の開発にもシミュレーションは不可欠で、ますます困難になる分子設計の指針を与えています。
ぜひ、自撮りをつかってアプリでメイクのシミュレーションをしてみてください。
written by 雪原まりも
↓参考文献