はつ恋

「わたし、ずっと、ずっとずっとずっとあなたのことが好きでした」
 
「ごめんなさい」
 
初めから、わかっていた言葉でした。それでも口は未練がましく動きます。
「わたしがブスだからですか?」
「違うよ」
「物を知らないからですか?」
「違うよ」
「中学生だからですか?」
「……そうだね」
 
頭をがあんと殴られたような気がしました。でも、そんなの初めからわかっていたことでした。お兄さんは優しいからわたしのような子供の話をたくさん聞いてくれるけれど、恋い慕うものとしては全くもって的外れなのです。
泣きたいと思っていないのに、勝手に涙が出てきます、スカートのポケットの中にタオルハンカチがありました。わたしはそれに顔を埋めて、涙が止まるのを待っていました。
 
「さらちゃん、本当のことを言うから」
「はい」
「本当のことを言うから、聞いてね」
「はい」
 
「僕はね、小学生より上のこは、好きになれないの。そういうおかしい人間なの。さらちゃんがどんなにかわいくても。さらちゃんがどんなに賢くても。さらちゃんは中学生だから、そういう対象にはならないの。ごめんなさい」
 
一瞬、意味がわかりませんでした。お兄さんは大学生の綺麗な女の人が好きなのだと思っていました。わたしが成長していないから駄目なのではなく、成長しているから駄目なのだ、と言われたのだと気づくのに、しばらく時間がかかりました。
 
「わたしが、中学生だからいけないのですか?」
「……そうなるかな」
 
「わたし、頑張ります。なんでもします。まだ中学二年生です。身長も151㎝しかありません。同じマンションに住んでる小学六年生の女の子はわたしより大きくて胸だってあって。知ってます?  最近の小学生はみんなもうランドセルなんか四年生くらいから辞めちゃって、スポーツブランドのリュックで通学してるんですよ。わたし、まだ全部あります。制服も、鞄も、帽子も、全部残ってます。だから、二歳だけ許してください、お願いします」
 
お兄さんはなにも言いません、表情も変えません、ただ、空白の時間だけが流れます。
わたしは、もう一度、お願いします、と頭を下げました。
 
「ごめんね、わかったよ、僕はさらちゃんのこと好きになるよ」
 
 
この文章はフィクションである。
わたしの"お兄さん"でありつづけた、
親愛なる振一郎さまへ捧ぐ。